もうすぐ70歳になる私が、30歳の頃体験した話です。当時私は自動車通勤をしていました。
帰宅するときには親しい同じ市内に済む上司を積んで、その人達を下ろしてから自宅に帰る日々を過ごしていました。
夏の盆休みが始まる前の週末のことでしたがいつもは自動車道などを通るのですが、週末ということもあって、ドライブ気分でめったに通らない山林道を通ることにしたのです。
その山林道は急なカーブの続く細い道で、部分的に対向が難しいという箇所もある道でした。
真夏の夕暮れですが、山道のため少し暗く、それですごく暑かったのです。

yama上り坂のためエアコンをかけているとスピードがどんどん落ちて、多分40Kmぐらいのスピードで山道を超えていたと思います。
峠の頂上付近で、道路の両側の木立が途切れて、山並みが見える場所が有るんですが、ちょうどその場所にさしかかったときに、山並みの向こう側から何かがすごい勢いで飛んでくるのが見えたのです。
助手席の上司も気がついたようで、「あれ何だ」と私に言ってきました。
その物体はすごいスピードで、私達のいる峠の方向に飛んできました。
そして一瞬だったのですが、その飛んでいるモノの形がわかりました。
それは大きな鬼の顔でした。そしてその大きな鬼の口には、乱れた髪の毛の男の生首がくわえられていたのです。
厳密に言うと、鬼がくわえていたのは生首の髪の毛で、首は振り子のようにぶらぶら揺れていたのです。
その鬼は私達には気がついていたかどうかはっきりとはわかりません。
しかし、自動車の上を飛び去る時、鬼の目玉が下を向き私と目があったような気がします。
あまりにも異様なものを見たせいか、恐怖映画のような悲鳴はあげませんでした。
ただふたりとも驚いていたのです。
しばらくして上司と顔を見合わせた時も上司が「●●君、何か変なもの見えたなあ」と言って、私もうなずくだけでした。
その後二人は無口で車を走らせたのですが、I神社を越えて、小さな薄暗いトンネルを抜けて、ようやく民家が見えた頃にとある民家の前で車が急にエンストしてしまったのです。

多分エアコンを付けたままで、スモールもつけたままでゆっくり坂道を登っていたから、オーバーヒートでもしたのだと私は思いました。
上司の方に顔を向けて、話そうとした時、助席の窓ガラスの向こうに、縁側の雨戸も障子も開け放った家が見えたのです。
真ん中に白い布団が敷いてあって、私達の方に足を向けて寝ているようで、枕元には白木のテーブルや線香立て、灯明などが乗せられていました。
布団の両側にはそれぞれ7~8人の人々が喪服を着て座っていました。
私の驚いた表情を見て、上司も横を見た途端、民家の人々も私達の存在に気がついたようで、その人達の視線が全員私と上司にそそがれました。
いまでも思い出すのは、その人達の目の印象だけです。
その時はさすがに、ふたりとも叫んだと思うのですが、はっきりとは覚えておりません。

あわててセルを回したら、幸いにもエンジンは掛かってくれました。
急発進して、その場を立ち去りました。
帰り道の車の中で上司と、一体何を見たのかと話しましたが、上司は「居眠り運転しかかって、夢でも見たことになるかなあ」とか、のんきな解釈していました。

内容が内容だけに、また変なものを見た理由も分からず、人に言うと祟がありそうなので、誰にも話はしていません。
その道路は、その後5年ほど通らなかったのを覚えています。
今はバイパスが出来たので、その道を通る必要はありませんので、行くこともないのですが、近くを通るときには、今でも緊張しまくりです。
また家族が同乗している時には、その道は絶対に事故らないように、慎重にゆっくりと、ラジオなどを大きい目に流して走っています。
上司も私もその後それなりの人生を過ごせたので、たたられなかったとは思うのですが、結局事態が未だによくわかっておりません。

氏名:不詳
年齢:60代
地域:大阪
性別:男性